蒼のウィステリア

藤色雨とリシテアの台本や情報をまとめています。

1人声劇台本「小さな恋 side 幽霊」

幽霊……若くして亡くなり古民家に地縛霊として存在している。

自分の姿が見える人間と二人暮らし 明るくのんびりちょっと素直じゃない

 

シーン1

SE:床が軋む

あー……ねぇねぇ ここの床ちょっと軋んでないかな

気のせいって……相変わらずなんだから君は

もうもう 百合ちゃんって呼ばないの 百合子さんって呼びなさい

君よりは随分先輩なんですからね わかりました?

あ そうだ……今日のお供えものはないの?

昨日おまんじゅう買ってきたって言ってたじゃない

コーヒーと一緒に供えてよ! そうじゃなきゃ味わえないでしょ!

こんな請求する幽霊っているの……みたいな顔しないの

はやくもってきてよーポルターガイストしちゃうんだからねぇー!

SE:陶器を置く音

はあ……おいしい……死んでから初めてコーヒーのおいしさを知りました

私 大学で研究中に死んじゃったって言ったじゃん

当時のコーヒーってそんなにおいしくなかったのもあるけど

コーヒーを味わう余裕なかったんだよねぇ

毎日毎日 資料とにらめっこして……仲間達と喧嘩したり協力したりして……

青春かっこ引きこもりだったけど……そんなときに心臓止まったんだから

世話無いなーと思っちゃう

それにしてもさー なんか忙しそうだね どうしたのよ

お客さん? めっずらしい……誰が来るの? どんな人なの?

そりゃ 百合子さんですから……同居人の様子が気になるわけで

地縛霊でここにいることは ここでつっこまないのー

私だって ちょっとは考えてるんですからそのことは

本当はもっと自由になりたいのに

ほら 喉に小骨が引っかかっていると 気になってしょうがなくなる

そういうことってあるでしょ?

喉に骨が……って もうそういう例え! 例えだから!

はあ……もう 君らしいなぁ

シーン2

SE:ピンポーン

お客さんだ

あ 結局誰がくるのよ!

教授? 大学教授?

橋場さん……

ん? あ どうしたの

ええ……私の顔が……? うそでしょ

いやね……なんか似てるなと思っただけ

懐かしい……名前に

SE:足音
SE:ふすまを開ける音
SE:座る音
SE:風鈴の音

バーブ

<<昔 もう30年以上前の事だろうか

ろくにクーラーの効かない研究室で

飲み物片手に話し込む仲間がいた

私と 静香と そして……

静香と学生結婚した助手の橋場さん

眼鏡が丸縁(まるぶち)で似合わない人だった

優しく笑う人だった>>

今 あの頃よりずっと大人になって 老いた彼が

君と話している

SE:虫の音
SE:風鈴

あ……君か……教授さん帰ったの?

そっか……なるほどね

倉の古文書の鑑定か なんかよくわかんないくらい色々あるよねここ

なるほど……

うん……ちょっと 楽しそうね

話があってたし ノリも似てるかもね

まあ あの人は昔から話聞き上手だったしねぇ

ああ……うん……知ってるよ 彼のことは

よく 知ってる……

……ん……

うん……

へ?

べ 別になんかあったわけじゃないよ

幽霊の私に何かがあるわけないじゃん

心配かけちゃったかーごめんね

はあ……まあ アレよ

大学で研究してたって言ってたでしょ

その時の仲間の一人

眼鏡 丸縁やめたのね……超ださかったのに

なんだか 落ち着いた大人って感じになっちゃった

そうねー年月の変化に驚いたのかも

人って年取るもんね 当たり前だけど

奥さんの力で イメチェンしたのかしら

そう あの教授ってか 橋場さん……学生結婚してたの

生意気だわー あんなダサダサ丸縁眼鏡だったのに

あれ……でも あいつ指輪してたかな

私が生きてるときは 指輪してたのよ橋場さん

静香って名前の奥さんもつけてたわ

仲いい二人だったけど……ねぇ……時間が仲を変えたのかな

ふう……お酒 供えてよ

ちょっと……酔いたい……

君も飲もうよ

え? 明日橋場さんと飲むの? 資料の講釈を聞く????

何よ いつのまに仲良くなったの

橋場さんの人たらしめ……

つまんないつまんなーい!

SE:足音

あ 行っちゃうんだ

……つまんない

シーン3

SE:蝉と風鈴

暑いね……早く 夏が終わらないかな

静香をほっぽりだして 資料探しするなんて

本当……橋場さんって 研究者の鏡

そもそもさー 聞きはするのよ

研究者は学生結婚か晩婚かの二つに分かれるって

静香は美人だし……お金もあるし……

何より優しいよね……

いい奥さんじゃん……

SE:本を動かす音

ちょっと近いよ……橋場さん

どうして……そんな……あっ

SE:抱きしめる音

ああ……うん……そっか

バーブ
<<……これ 夢だね>>

うわ……幽霊でも夢見るんだ

眠れることにもびっくりだけど

昨日のビールのせいかな……はあ……

情けない夢だよ めっちゃ妄想じゃん

橋場さんが私を意識してくれたこと……一度だって無かったのに……

SE:足音

おはよう 君か

むう……むぅ……

いきなり鳴きだしたっていいじゃない

むぅ……むぅ……

鳴きたいときだってあるのだよ 幽霊だって

むぅ……むぅ……

そういや もう秋だっけ

蝉はもういないよね……

へへ……いや 夏の……夏の夢を見ただけ

シーン4

SE:鈴虫

ふんふんふーん……ふふん……ふふーん……

橋場さん もう帰ったのね

ふんふんふーん ふふーん

何よ ビール供えてくれるの 気がきくじゃん

君も飲むのか

結構さっきまで飲んでなかった? 

ははー 酔わないからか 酒豪は違うね

私に喧嘩売ってるのかな

あはは 冗談だよ冗談

飲もうよ かんぱーい

SE:缶をあわせる

鼻歌? ああ 歌ってたね

上機嫌じゃないよ……別に

むしろ心がざわついて 気持ち悪いくらい

あーあ……はあ……

んー……んぅ……

はあ……

静香……もう亡くなってるのね

前に言ったでしょ 橋場さんの奥さん

私の友達……

指輪つけてなくて当然だよ

既婚者でもないんだから

元からちょっと体弱かったけどねぇ……

そうか もう……そんなに時間が経ったのか

寂しいとか……思わないし……

……んん……

ごめん ウソだわ……寂しい

静香も橋場さんも進んでいて 私だけ取り残されてるみたい

おじさんになっちゃってさ 橋場さん

いや もう60近いのか おじいちゃんかも? かも?

はは 私は何も変わらないまま 今のままだわ……

……橋場さんと何かあるわけないじゃない

あの人とはなんもない

なんもないまま……私は心臓発作で死んだだけ

ほんとさ なんかさ……死んだって虚しいよね

言いたい言葉も言いたかった言葉も 全部なくなっちゃう

……虚しい

SE:風鈴

あはは かっこいいこと言うじゃん

私の愚痴って結構長いよぉ……覚悟きめなきゃ行けないレベルだよぉ

それでも聞くっての?

はは……酒のつまみにはなるってか

あーもうーきらーい

イイ男過ぎてきらい……

私の好きなタイプはねー

だっさい丸縁眼鏡をつけたやつなの

優しいけど 人の気持ちを全然気づいてないヤツなの……

心配しないで だいきっらい

泣かないわよ ダサいから

でも……ありがと

アンタはいい人と巡り会えるといいね いつかは

私に構ってないでさ

やだ……なんであんた

そんな顔 してんのよ

バカだなぁ……

シーン5

<<花のように短い人生で 一番後悔していることがあるとしたら

それは彼に告白できなかったことだ

むすばれることなんてない 徒花みたいな恋

静香との関係もギクシャクしたくなかったし

彼を驚かせたくも無かった

はは……言い訳はいくらでも出来る

本当は何より 私に意気地がなかったのだ

彼に告白する 勇気を持てなかったのだ>>

SE:足音

あー やっときたあ……橋場さんって本当ノロいだから

もう今日で最後だもんね……資料確認して あいさつしたら……それでって感じ?

もぅ 会うことはないだろうね

はは……あー もうさ……何も気にする必要ないんだよ

私はもう 生きちゃいないんだから

でもこの想いはまだ息づいてる……やっかいだね 恋は

へー その気持ち 分かるんだ ふふ そっか

私は終わらせなきゃいけない気がする

後悔をここで降ろさないといけないんだよ

あーあ 生きてるウチに言っておくモノね

大事な言葉は

橋場さーん!

私 あなたのこと 大好きでしたっ 愛してました!

この想いは生きてるウチに伝えられなかったけど

もう届かなくても 私は……!

あなたがすきでした

<<この想いを 彼は永遠に知らない

私の独りよがりな告白だ

けれど……>>

間2秒間 

今の聞いた? ねえ 君聞いた?

懐かしい声だって 友人の声だって

あの人 30年も前に死んだ女の声を覚えてたのよ

もう 忘れてても当然なのに……

ばか……ばか……大好き……

でも さようなら……橋場さん