蒼のウィステリア

藤色雨とリシテアの台本や情報をまとめています。

1人声劇台本「小さな恋 side 人間」

小さな恋 side 人間

シーン1

SE:床が軋む

え……床が軋む……まあ うん……気のせいです

細かいことを気にするなぁ百合ちゃんは

百合子さんですか……ああ そうですね わかりましたわかりました

へ ああ……よく覚えてるね まんじゅう買ってきたこと

そこまでキーキー おやつとコーヒーを供えろって言わないでくださいよ

まあ……百合子さんらしいけど はあ

SE:陶器の置く音

死んでからコーヒーの味にしみじみしてるんですか

不思議な幽霊さんだなぁ

バーブ
<<平屋建ての民家 倉つき 築はリノベーションはしているが相当らしい ボクはそんな家に暮らしているのだが この家には幽霊がいた 可愛いけど ちょっと子供っぽい そんな幽霊が>>

大学で勉強していて……その途中であえなくって感じですか

人生って なんでしょ……あっけないですね

ボクの大学時代は そんな仲間達と一緒にどうこうするって なかったですよ

独りでしたね 灰色みたいな時代でしたけど

え? 忙しそう 忙しいですね

お客さんが来るんですよ この後

そんな珍しがらないでください それに相手の情報 欲しがりますね

ははは……ボクと百合子さんは同居してるわけじゃないですよ

地縛霊として 百合子さんがここにいるってだけですからね

ほう 考えてるんですか……意外

<<ボクの世界は色彩がない 変らない日常 終わらない仕事 わりとそつなくこなせるから 困らないのは幸せだろうか けれど灰色の世界で 百合子さんは鮮やかな存在に見える>>

はあ 喉に小骨ですか 幽霊でも小骨ひっかかるんだ

ははは 冗談ですよ冗談

でしょでしょ ボクらしいじゃないですか

シーン2

SE:ピンポーン

ああ……時間通りだ はーい今行きますね

百合子さんそんなに聞きたいんですか相手のこと

教授です 近所の大学で教授をされてる方です

橋場って名前だったかな

あの……

どうしたんです 百合子さん

いや 顔が……急に

似ている? 何に?

似た名前の方を知っているんですか……なるほど

SE:足音
SE:ふすまを開ける音
SE:座る音
SE:風鈴の音

こちらでは初めまして 堂本と申します

倉の整理に困っていたモノで 橋場さんのご協力本当に感謝します

さっそくなんですが……(フェードアウト)

へえ……この家の元の管理者は 庄屋だったんですか

ここらの土地を管理してたんですね

橋場先生は さすがというか お詳しいですね……

色々とお話を聞きたいモノです

え……いいのですか? 倉にまつわる話でも

興味があります

いえ歴史好きというわけではないんですが……ただ……

住んでいる場所にまつわる話というのは面白いじゃないですか

わかります? この気持ち うれしいですね はは

ああと……話し込んでいたらこんな時間だ

家の話は明日にでも 何かつまみになるものでも用意しときますね

夜分遅くまで 倉の整理……ありがとうございます

遅く帰ってもいいのですか……はあ

とはいえ限度ってあるものですよ 長々とありがとうございます

お見送りしますね……

SE:虫の音
SE:風鈴

帰りましたよ 教授さん

倉の整理……結構な量だったなぁ

正直疲れたなって感じ

そうそう 家を買う条件に倉の引き取りがあったけど

まさか寄贈の価値があるもんだとは思わなかった

だけど……いい人だったな 話しやすかった

ノリか……確かに似てるかも

なんで百合子さん 橋場先生が聞き上手なの知ってるんですか

そう 知り合いなんですか……

あのさ

先生と何かあったの……

いや明らか様子おかしいし

ただなんか変だから 気になった……それだけです

生きてた頃の知り合いなんですか

ふうん……そうか

丸縁眼鏡すらつけてなかったなあ

百合子さんの記憶の中ではつけてたみたいですけど

そうですよ 年をとるもんです

イメチェンだってするでしょうね

(いぶかしげに)え 奥さん いるんですか?

学生結婚とかはやいですね はや……

百合子さん丸縁眼鏡の執着が強いですね……

先生イコール丸縁眼鏡って感じですよ

指輪……確かに……

へえ 百合子さんが生きてたときはつけてたんですか

奥さんも指輪をつけて仲良しですね

時間は変えますよね……いろんなコトを

いきなり酒ですか 供えろっていわれても

飲みの誘いされてもダメです ボク、今日酔える状況じゃ無いんで

明日橋場先生と少し飲むんですよ 倉の資料について教えてくれるそうです

いつのまに仲良くなったと言われても……

先生のことというか 人のことを 人たらしって言わない方が良いですよ

わあ……駄々こね始めた

百合子さんってば……はあ……

<<百合子さんは橋場さんに……ボクには言えない感情を持っている それだけはとても伝わる……久しぶりにあった男なのに……毎日顔を合わせてるボクより 気になってしょうがないんだろうか>>

<<ボクはあなたが……あなたが……>>

SE:足音

あー くそ……つまんないな

何してんだろ自分……百合子さんともうちょっとこう……こう……

どうしたら いいんだか……正直 わかんねぇよ

シーン3

SE がやがやした飲食店

こんなところに来るの初めてですね百合子さん

そうやってニコニコして あなたはどんなところでも変らないんだから

……ボク ですか?

……ボクは 変りましたよ結構

本当ですよ……そんな表に出しませんけど

当たり前じゃないですか 結構それなりに年です

実年齢だとしたら違うけど すくなくと百合子さんの見た目より上だ

SE:喫茶店のガヤガヤ

はあ……

ため息つきたくなりますよ

すごい物件にきたもんですよ

床は軋むし 幽霊はいるし 幽霊はボクの気持ちに気づかないし

こんな家 越してこなければよかった……

でもそうじゃなきゃ……あなたと逢えなかった

いっしょにいて……デートしてくれてありがとう……

でも分かってるんだ

夢なんだって

SE:店のガヤガヤ(停止)(フェードアウト無し)

SE:小さなカラコロ

世界の彩りをおしえてくれたのはあなただった

例え見ている方向が別でも……

ボクは あなたを見ている

SE:足音

おはよう 百合子さん

ってなんですか むぅ……って 何の鳴き声ですか

はあ……幽霊でも鳴きたいことが……はじめて知りました

ボクもなんだか鳴きたいくらいですね なんだか

そうですよ……秋 虫も鳴いてるじゃないですか

蝉はもうとっくにいませんよ もう秋ですから

何ですかその顔……なんかあったんですか?

夏の夢ですか……

ボクもそういえば今日 夢を見ましたね……

シーン4

SE:鈴虫

<<鼻歌を彼女は歌っている 愉快で楽しげな……でも知っているんだ その歌声の内側は……>>

ああ はい……橋場先生は帰りましたよ

そうだ これをどうぞ……お供えのビールです

もちろん ボクも飲みますよ

まあ 飲んでましたけど……あれくらいじゃ酔いませんね

なんで酒豪とか喧嘩を売ってるとか……そんな言い方 困るんですけど

ビール飲んでないのに 冗談が わるい酔っ払いみたいですよ

はい 乾杯

SE:缶をあわせる

鼻歌 歌ってましたね 機嫌良いんですか?

……知ってます 百合子さんって素直じゃないから

こういうとき 鼻歌歌うんですよね

SE:鈴虫

静香って……

ああ 橋場先生の奥さん

そうですね 亡くなっていたんですね

……離婚とか不仲とかじゃ無くて 亡くなっていたらそうなりますよね

30年は 少なくとも経っているんでしたっけ

百合子さん 寂しいんですか?

うん……うん……

<<彼女の嘆きは 心に刺さる……虚しい……死んでから 他の皆と違って 何も変わらず時間が過ぎる……その哀しみをボクは聞いていた>>

……ボクが全部 受け止めますよ百合子さん

……あなたの哀しみだってなんだって……

SE:風鈴

……かっこいい ですか

茶化さないでください

愚痴が長いとか平気ですよ

一緒にいるんです 分からないわけじゃないでしょう

アナタの愚痴だったら 酒のつまみくらいになります

……イイ男だからダメなんですね なんだか はは……

大丈夫ですか? 百合子さん 泣きそうですよ

……ボクにいい人が現われるんですかね

そういうこと言う 百合子さん 嫌いだな

変な顔してます? ですよね……

ええ バカなんです……本当 バカって思います……

シーン5

<<延々と続く道路を歩くような人生で 一番伝えたかったことがあるとしたら それは彼女に告白をすることだ けれどその思いは伝わることもない 徒花みたいな恋 生死の境があるし 言ってもどうにもならないだろと分かっている ……ボクはきっと彼女に ボクの気持ちを伝えない 意気地が無いというよりは 彼女にはただ 何も知らず 幸せであってもらいたいのだ>>

SE:足音

こらこら人のことをノロいとか言わないで 百合子さん

そうですね 今日はもう最後の締め作業ってだけで 百合子さんの言うとおりです

……倉の整理が終わればってだけの関係ですから

はあ……恋は死んでも終わらないんですね 勉強になるな

まあ でも そうなるのかなって思いますよ

恋の消えない感じ……ちょっと分かります

もしかして告白するんですか

すごいな なんかすごいなぁ……

大事な言葉を生きてるウチに……チクッとささりますよ

はは……深い意味はありません

ほら 言ってきてください! 百合子さん

先生 行っちゃいますよ

<<背中を向けて歩き出す橋場先生に告白する百合子さん……それを眺めながらボクは呟く>>

ボク 百合子さんに会えて良かったですよ

生きてて良かった

本当に ありがとう……

<<もし神様がいるとしたら ボクはこう言うだろう>>

<<世界ってこんな色鮮やかなんですね>>