蒼のウィステリア

藤色雨とリシテアの台本や情報をまとめています。

【声劇台本】それが儚い終わりだとしても(男性2:女性1)

加賀明久(かがあきひさ)……重度の病気(心臓系だと思って下さい)で病院で人生の多くを過ごしている。病気の影響で二次症状で全身はぼろぼろ、余命もそれほど長くはない(一ヶ月後にすぐ死ぬと言うレベルでもないが)
性格はあっけらかんにみえてうじうじすることも。ドライに見えて湿っぽい繊細な男の子。髪は紫、着る服もおしゃれだが色彩がやたら派手である。病院生活で空ばかりを見ることが多く、青と白が身近に感じているが、それ以外の色は縁が遠く、苦手むしろ嫌いだったりする。何も出来ない嫌いな自分に、嫌いな色を着させている。

 

久慈春音(くじはるね)……明久の幼なじみであり、明久の初恋の人。幼い頃は活発な性格で無茶も多かったが、無茶が減っただけで、明るさは消えてない。病院ボランティアでたまたま再会した。明久の変貌した姿に驚きつつも根の繊細さや優しさは変わってないと考えており、やがて仲を深めていく。当初明久が肝臓をやらかして入院しているということを真に受けていた。

 

塩田健司……明久の主治医、落ち着いている雰囲気から人気が高いが、そっけなさも目立つ医師。看取りを専門にしていた時期もあり、出来れば患者には納得した死をと願っているが、現実はハードルが高いと諦めている。
ナニも定めてないのに余命を削る行為に一番キレだしてしまう。優しさと諦めと口の悪さが強い医者でもある。

シーン1

SE:草をふむ足音
SE:秋虫の声

明久「ここに、埋めようか。はるちゃん」

春音「うん……タイムカプセルだよね! でも大丈夫? ここを掘るんだよね」

明久「そうだよ、深く深く掘るんだ……タイムカプセルが見つかったらダメだから」

春音「いつか……またあきちゃんと会えたら…これを開けるんだよね」

明久「いつか、絶対……開けようね」

春音「うん! 約束だよ……」

BGM:昼・まどろみ(イメージ)
SE:風

春音「ん……うん……ふわっ……あ、寝てた……」

春音M「私はびっくりして周囲を見渡す、幸いなことに誰もいない」

春音「さて……集合場所に行こうかなぁ……って、あれ、ここどこだ?」

SE:「・・・」

春音「やば……一人で静かに食べよーっておもったら……ウソでしょ」

春音「迷子じゃん……ここどこよ」

SE:階段を上る音

塩田「ん……こんなとこで何してるんだ君……」

春音「あ、えーとなんといえばいいか」

塩田「その見学バッジ……ああ、病棟ボランティアで来てるんだな」

春音「そうです! お昼ご飯を食べにふらふらーとしたら、ココで食べてしまって……」

塩田「そうなのか……そういえば、さっきボランティアが集合しているのを見かけた。行かなくていいのか」

春音「やっぱ、そうですか! ど、どこで集合でした?!」

塩田「……二階の北病棟だ。君、声でかいな……」

春音「すいません……って、やっば行かなきゃ、失礼します!」

SE:階段を下る音

塩田「……すごい勢いで行ったな」

塩田「若いっていいもんだよ……体力だけは」

SE:缶コーヒーを開ける

シーン2 再会/はじまり

春音「うあぁ……遅れたせいで、ボランティア延長になっちゃった……」

春音M「まあ、患者さんの部屋のゴミをまとめていくだけだから……ちゃちゃっとやっちゃいますか」

SE:トントン
SE:ドアを開ける

春音「ゴミの回収にきました、失礼しますね」

塩田「……明久君、どうするか君次第だが、時間の使い方は考えた方がいいぞ」

明久「はーい、了解でっす」

塩田「……そういう態度、やめろってんだろ、クソガキ」

明久「そんな眉間にしわ寄せたら老け込みますよ、分かってますってこれでも」

塩田「ふん……」

SE:足音

春音「あ……すいません、お話中のところ」

塩田「別に構わん……まだボランティアが続いてたのか」

春音「はは……」

SE:ドアの開閉音

春音M「なんか一言ツッコんでもらいたかったかも……」

明久「誰かな? ごめん、ドアの前で言ってくれた気がするけど……聞いてなかったもんで」

春音「あ、ごめんなさい! 私ボランティアで来てて、ゴミの回収にきまし……」

明久「ああ、そうなの、大変だ……あ」

春音「あき君!」

明久「はるちゃん!」

明久M「驚いた……一瞬何かがこみ上げて言葉にならないほどにびっくりした。会いたいなと思っていた……でも会えたとしたらまさに奇跡で、とても、とても……困難だと知っていた……」

明久「なんでこんな所に……ってか、俺のことよく分かったね……マジでマジでマジで」

春音「それはこっちのセリフだよ! よく分かったね、私のこと」

明久「そりゃー春音ちゃん、全然顔変わってないしー」

春音「そんなことないって! 変わってるからっ」

明久「あはは……そうだね、なんとなくちゃんと見た瞬間分かったんだ……はるちゃんだって」

春音「不思議……私もそんな感じ、なんかあき君だって分かった……というかさ、なんで入院してるの? この病棟にいるってことはそうでしょ?」

明久「ああーそうなの、肝臓を一発やってね、でも治療って言っても実はほとんど終わってて……休め休めって言われてさー、病院で引きこもりしてる」

春音「何ソレ(笑い)ほんと、昔から体弱いよねぇ。というかさ、髪の毛紫だし、ド派手じゃん」

明久「超目立つでしょ(笑い) どんなところでも目立つ自信あっから、探すの楽よ?」

春音「迷子前提なの(語尾笑いながら)」

明久「そうそう、まあ、よかったら暇つぶしに来てよ……俺さぁ、ずっと暇なんだ」

春音「しょうがないなぁ……じゃあさ、はるちゃんって呼ぶのやめてよね。昔の呼ばれ方すぎて、逆に恥ずかしい」

明久「あ、そうか。もう随分前だしな」

春音「はるって呼んでよ、あき君のこともあきって呼んでもいい?」

明久「そうだな、呼び方変更料払ってくれたら……っていただ……つねらないでよ」

春音「昔は素直でイイ子だったのになぁ、どうしてこんなふざけたことを言い出すのか」

明久「はっはは……ジョブチェンジしたのだ。ああ……そんな睨まないでって……全然いいよ、あきで」

春音「よし、わかった! また来るねっ、そろそろボランティア戻らなきゃ……」

明久「うん、また……待ってるよ」

SE:袋のくしゃくしゃ
SE:足音

春音「ばたばたでごめんね!」

SE:ドアの開閉

明久「あー……あ……」

SE:ベッドに沈む

明久「ちょっと神様がいるんだったら…やること、きついって……はる、ちゃん……いや、はる……ははっ、はは……」

シーン2 和やかな日常

春音「肝臓悪くしたとか、お酒でも飲んだの?」

明久「ばっか、そんなことするかよ……ただの突発的なヤツだし」

春音「本当に暇って顔をしてるよねー、いつも何してるの?」

明久「うーん、目の運動?」

春音「目の運動?って、何(笑い)」

明久「目の運動っていったら、目の運動だよ……しないの?」

春音「そんなさもするの当然って感じに言われてもさぁ……スマホとかガン見しちゃうから、目の運動とかしないかも」

明久「そっかぁ。俺は良くするんだよね……天井見て、外見て、空見て、また天井を見るって」

春音「飽きない?」

明久「あきるを通り越してるからなぁ……なんというか無心になれて逆に都合が良いな!」

春音「うそでしょー、アキって変ってるなぁ……」

明久「いや、普通じゃないから面白くない?」

春音「面白いのかなぁ……不思議って感じしかしない」

明久「そこは笑ってくれると嬉しいけどなぁ……ははん」

春音「ちょっとちょっと、もしかして渾身のボケだったの、今の話」

明久「あーあー、ハルが優しくなーい」

春音「ちょっとー、誤解を招くようなこと言わないでよ!」

明久「ふははははは、やったぜ勝ったぜ」

春音「はあ……もぉ。わけわかんない」

春音M「昔、そう小さい頃のアキは体が弱かったせいもあって、友達もいなく気弱だった。そんな彼のことをひっぱるのは私で、翻弄するのも私で、今とまるで真反対だ。彼はあれから、変ってしまったのだろうか……」

明久M「ハルは変らない、その明るさもはつらつとした姿も、変らずそして可愛くなっている……その姿がまぶしいだなんて、とても言えなかった」

春音「アキって姿も性格も、なんか変っちゃったなぁ……って思うけど」

明久「思うけど?」

春音「いや、目が変ってないなって思って」

明久「そうかなぁ、つまりは成長してないってコト?」

春音「ううん、そうじゃないけど……なんていうか、むずかしいな、上手く言えないや」

明久「ナニそれー(笑いを含む)それじゃ俺も分かんないよ」

春音「そうね、あはは」

春音M「変っていないと思う……アキの瞳の奥に見える、寂しそうな光、私はその光を見逃せなかったのだ……今も、昔も」

明久「今、季節って秋だっけ……」

春音「そうだねよ……もう9月の真ん中……あ、そうだ、中庭に出ない? 日差しが気持ちいいと思うよ」

明久「うーん、いいよ……ダルいし」

春音「まただるだる病がでたー、お見舞いに結構来てるけど、ほんと引きこもりだね……外の空気、吸いたくないの?」

明久「外の空気ってさ、というか外自体が俺にはまぶしすぎるの……引きこもりを舐めないでよ、ハル」

春音「はあ……そうなんだ……」

SE:ドアをノックする
SE:ドアの開閉

明久「はい?」

塩田「俺だ……明久君、検査の時間近いのに姿が見えないって、看護師が心配してたぞ」


明久「そうだーいかなくちゃー、でもそんなことわざわざ言いに来たの? 塩田センセー忙しいでしょ」

塩田「ここの近くを通ることになってたんだ、その次いで。おら、看護師に迷惑かけんな、行け」

明久「はいはーい……ごめん、ハル、ちょっと行ってくるよ。多分時間かかるからここまでみたい」

春音「うん、また来るね」

明久「ああ……」

SE:布ずれ
SE:足音
SE:ドアの開閉

春音M「私も帰るかぁ……」

塩田「ちょっと君……明久君のトモダチなんだよね」

春音「はい、そうですが」

塩田「だいぶ、あいつ……君がいてくれて楽しそうだ。ニコニコしている」

春音「そうなんですね」

塩田「……入院が長いからな、でもこんな話をしたくて呼び止めたわけじゃない」

春音「はあ……」

塩田「あいつから、何か聞いてるか? どうして入院しているのかとか、その辺り」

春音「え、肝臓でやらかしたとか」

塩田「そうか……あまりこういうコトをいうものではないが、明久君との距離感を考えた方が良い」

春音「なんでそんなこと……」

塩田「双方のためだよ、それだけだ……あいつとの関係は、覚悟なしで続けるもんじゃない」

春音「言ってる意味が……」

塩田「全てが分からなくていい。ただ言いたいのは、明久の関係を考えろってことだ」

春音「はあ……ですが」

塩田「おっと悪いが時間だ、失礼」

春音「あ……」

SE:足音
SE:ドアの開閉音

春音「ろくに話を聞かずに……言っちゃった。何よあの医者、コミュニケーションレベル、雑魚なんじゃないの??」

春音「(深いため息)はあ……帰ろ」

シーン3 駆け引き

SE:雨

春音「雨が、なかなか止まないね……そろそろ帰らなきゃなのに……落ち着いて欲しいな」

明久「……ねえ、ハル、覚えているかな? 昔、二人でタイムカプセル埋めたこと」

春音「え、唐突だね……覚えてるよ、アキがいなくなる直前だったよねぇ。そういえば……こんな季節だったな、埋めたの」

明久「最近さ、タイムカプセルが無性に開けたくなる……ハルと再会したからかなぁ」

春音「そうなんだ……でも仮にも入院してるんでしょ? 外出許可もらわないといけないんじゃない?」

明久「そうなんだよねぇ……もぎとってくるわー」

SE:雨

明久M「ハルが帰った病室は、あまりに寂しい……その寂しさで胸が苦しくなる。これは病気じゃない痛みでもあって……俺は……」

明久「ハル……」

明久M「まるでまじないのように、彼女の名前を呼ぶ」

SE:雨
SE:ドアの開閉音

明久「ちょっとぉ、ノックをしないなんて……マナー悪いよ」

塩田「マナー悪くて結構。聞きたいことがあってな、外出についてだ」

明久「えー、真っ当な理由でしょ……次の病院の見学に行きたいって」

塩田「ああ……それは聞いてる。だが明久君、これはあくまで俺から見た君の印象だが……君は生きるも死ぬのもどうでもいいってタイプだろ」

明久「すっごいーさすがセンセイ優秀」

塩田「褒め方が雑で、逆にムカつくわ。見学はもちろん許可はする……あっちの病院とも連絡はしているようだしな……だがもう一度確認したい、本当にそのための見学だよな」

明久「もちろんだよ……当たり前じゃん」

塩田「わかった……すぐにやろう」

明久「アリガト。ねえ、センセイ、今日は雨で……空暗くてやだね」

塩田「あ? 急にどうした」

明久「いや……はやく、上がるといいなあって、そんだけの話よ……空まで暗いと嫌になるな」

塩田「そうか……晴れると、いいな」

明久「うん、そうじゃないと困るなあ……」

シーン4 それでも君と逢いたい

SE:電話の着信

塩田「はい……塩田です。どうしました? そんな慌てて……は? 加賀さんがいなくなった? その一瞬でですか……なるほど、すぐに対応しますっ、職員にも声をかけるんで、では」

SE:電話を切る

塩田「監視はあっちの病院の方が弱くなる、そこをつくとは……クソガキが」

SE:街頭のざわめき
SE:時計の音

春音「もうー、誘ってきたのあっちなのに……遅いなぁ……。というか、入院患者が外に出てデートっていいのかな……あんまり知識ないから分かんないんだよねぇ……うーん」

明久「はあはあ……ぐぇ……しんどい、電車ってこんなにしんどいんだ……」

春音「アキ! なんでそんなボロボロなのよ、大丈夫?」

明久「いやー電車というラスボスと戦ってきたばっかりだから、しょうがないんだよぉ」

春音「電車の混み具合に負けたの……? 今はまだマシだよ? 出勤ラッシュに遭遇したらどうするのよ」

明久「ミンチになった俺を大事に食ってくれ」

春音「きもちわるいこといわないでよぉ(笑いながら)」

明久「それよりもさ、ハル。俺お腹空いちゃったよ、食べようよー」

春音「まあ、お昼だしねぇ。パスタにでもしようか、うんうん」

明久「あーぱすたー、たのしみー」

春音「棒読み過ぎて、心配になるんだけど」

明久「大丈夫大丈夫、ハルと一緒ならどこでもいいよ」

春音「……そ、そう? まあそう言ってくれるなら嬉しいけど…」

明久M「体が濡れてしまったように重いし、動くだけでもしんどさで涙が出る……でもやっと、ここにこれたんだ……」

春音「どうしたのよぉ、アキ。そんなニコニコして」

明久「んー、そうかなぁ、気のせいだよぉ」

SE:足音
SE:時計

春音「お店、結構混み合ってて、ゆっくり出来なかったねぇ」

明久「ほんと、結構ハードだなって思ったよ」

春音「ほんとだよー。結局公園まで来なきゃのんびりできないとは……」

明久「懐かしいよねここ……ハルとよく遊んでいたっけ」

春音「そうそう、アキはさぁ、おいかけっこもしんどそうだし砂遊びでせきこむから……遊んでいたと言うよりは、話してたって感じだよね」

明久「そう、体弱かったからね」

春音「そういや、聞きたいことあって……めっちゃアキって服とか頭とか派手だよね。色合いといえばいいのか」

明久「そうかもー。白と水色以外の色を服に使ってるし、頭、紫だし」

春音「ほんと、派手(語尾笑いながら)南国の鳥でいそうだよね、そういうの」

明久「おーそうなのか、よく考えてなかったなぁ」

春音「なんで、白と水色は外してるの?」

明久「うーん、なじみのある色だからかなぁ……すごい飽きるまで見ていたし、空」

春音「空が好きなの?」

明久「いや……空しか見えないのが、俺の世界だから………」

春音「あのさなんか、ハードな話になっちゃう? これもしかして」

明久「いや、そんなことないよ……ぼっちのプロによるぼっちな世界講座だから」

春音「友達いないの?」

明久「いないよー」

春音「えー私は、私はそうじゃないの」

明久「はるは俺のトクベツ」

春音「え」

明久「友人なんて言葉じゃ足りなすぎる」

春音「やだ……ちょっと恥ずかしくなるじゃん」

明久「へへへ、やったぜ。まあ、そろそろ……タイムカプセル掘ろうか」

春音「うん、ちっちゃいけど言われたとおり、シャベル持ってきたよ」

明久「よし、完璧だ」

シーン5 世界を彩ったのは

SE:土を掘る

明久「あ、これだ……やっと出てきた……昔の俺ってどこまで深く掘ったんだろ」

春音「結構しっかり埋めてたねぇ、だからまあ掘り出されることなかったって感じだけど」

明久「そうだなぁ……じゃあ、開けようよハル」

春音「うん! ここを押せばいいはず……」

SE:かこっという音
SE:かしゃかしゃ(ビニール袋いじる音)

春音「ビニール袋にはいって……うわ、日記帳とか手紙とかド定番なの入ってる」

明久「それはハルが入れたヤツだね。未来に手紙を残すんだとか言ってたよ」

春音「懐かしい、つたない字だなぁ……」

明久「俺は、ハルと遊ぶときに使ってたサイコロとか入れたみたいだな」

春音「手紙とか残さなかったの?」

明久「……そういうガラじゃ無かったんだよ」

春音「えー、結構面白いのに―」

明久「まあ、いいんだよ、俺が見つけたかったのは……ああ、あった」

春音「指輪? ああ、おもちゃのだね……ブロックで出来てる」

明久「ハルは覚えてない? あの頃学校でプロポーズごっこがはやってて……おもちゃの指輪を渡す遊びをしていたことを」

春音「ああ、そんな遊びが……おませだなぁ……」

明久「そう、十年早いって遊びだよな……でも俺は当時、指輪を渡したかった子がいたよ……けど、自分のコトを考えたら、悲しませるかもと思って諦めた」

春音「それって急な転校していった件?」

明久「いや……俺の問題の方かな」

春音「アキの問題?」

明久「だからもし奇跡が起きて……再会が出来たら、渡したかったんだよ、この指輪を」

春音「アキ……どうしたの、顔色すごい真っ青だよ」

明久「ハル……この指輪を渡したかった……君は俺の世界に彩りをくれたんだ、今も昔も……」

春音「アキ、やめてよ、そんな死んじゃう前のセリフみたいなことを言わないでよ!」

明久「俺の人生って、何の意味があるんだろとおもったけど……きっとこのためにあったんだ」

春音「何言ってるの、アキ!!」

明久「ハル……大好きだ……」

SE:どさっと倒れる音

春音「アキ!!!」

SE:救急車の音(遠くからフェードイン)

シーン6 真実

SE:時計の音
SE:カップの置く音

春音「……先生、明久はどうなっているんですか? 彼は本当はどういう状態だったんですか」

塩田「……ぼろぼろだよ……どこもまともなとこはありゃしない、元から心臓が弱かったが……そこから二次症状もすすんで、心臓自らが動きをとめるか、それとも血管が詰まって止まるか、ほかの症状でどうにもならなくなるか……バリエーションがありすぎて、医者が匙を投げ出すと言われてもしょうがないだろう」

春音「なんでそんなこと、私に教えて」

塩田「(遮るように)教えたとして、君は何をするつもりだったんだ」

春音「それは……」

塩田「あわあわとうろたえるだけだったんじゃないか? 今も変わらず。そうなるのがアイツは嫌がったってのもあるだろうし……出来れば何も知らせずに、普通の人間として扱って欲しかったのもあるんだろうな」

春音「アキ……」

塩田「かっこつけすぎだな、百年早いといってやりたいくらいだ」

春音「うう……」

塩田「明久君はとりあえず一命はとりとめたが……医師としては面会謝絶を出さざる得ない。もう、あのガキのことは忘れろ……日常に帰れ」

春音「日常に……」

塩田「これ以上こっちに踏み込むと、痛いじゃすまないからな」

SE:椅子から立つ
SE:足音
SE:ドア開閉(大きめ)

春音「アキ、アキ……やだよ、このまま、終わるだなんて……嫌だよ……」

春音M「胸の奥からこみ上げる切望、渇望……アキに会いたいという、単純な願い……この気持ちをなんと表現すればいいのだろう……あまりに苦しくて……甘くない……それが私の恋だった」

SE:時計の音
SE:ドアの開閉
SE:足音

塩田「おい、起きろ……目覚めたって報告受けてんだ、クソガキ」

明久「ああ、うん……バレちゃったか……」

塩田「なんであんなバカやった、死ぬとこだったぞ」

明久「えー、女の子とのデートだよぉ、行かないわけないでしょ」

塩田「こんな時までふざけやがって……いいか、お前は死ぬとこだったんだ! 死ぬってどういうことかわかるか! 戻って来られないことなんだぞ……お前はなんも決めてなかったろ、どう生きていくのか! どう死んでいくのか! 人より何倍も考える時間があって、何倍も空を見て、考えることを放棄をしていた。そんなヤツが、外でデートだ? 医者がそんな自殺行為、認めるわけないだろ」

明久「俺は……けほっ、命かけても良いと思ったよ。それくらい、大事だった……」

塩田「お前……」

明久「春音に会いたい……どうしても会いたい……先生、いつだったら会えますか?」

塩田「それは無理だ、ご家族以外は面会謝絶にする……とても彼女と会わすわけにいかない」

明久「お願いだよ、会わせてください」

塩田「馬鹿野郎、自業自得だ。なんでそこまで会いたいんだよ」

明久「へへ……俺の、最初で最後の恋だから……会いたい……」

塩田「無理だ……それとやはりお前の治療のために、転院の話も出ている……彼女のことは諦めろ」

SE:ドアの締める音

明久「ハル……どうしてるんだろ」

春音M「世界は都合がよくない、覚悟なしでは触れられないこともある」

明久M「それでも止められなかった、隠しても何をしても、君に恋をした」

春音M「私は今、決断を迫られている」

明久「俺はハルに」

春音「私はアキに」

明久(右)「会いたい」
春音(左)「会いたい」

シーン7 手を取り合って

SE:車を出す音
SE:走行音

塩田「もう、20分ってとこか……転院先まで」

明久「すごいよね……あっという間じゃん、転院……そんなに俺って追い出したかったの?」

塩田「ノーコメントだ、と……ここ寄ってくぞ」

明久「何ココ、駐車場じゃん」

塩田「タバコを一服させてくれ、ちょっと出てくる」

明久「搬送中にそれって、すげー不良医師じゃん、アンタ」

塩田「うるさいな。医者自ら搬送するなんてあり得ないんだ、ボーナスつけさせろ」

明久「はいはーい」

SE:車のドアの開閉音

明久「あー……しんど、はやく休みたいな……」

明久M「また、空ばかりを見る生活に逆戻りだ、タイクツで苦しいだけの」

明久「はあ……ん?」

SE:こんこん(ガラスを叩く音)

明久「あっ……!」

SE:車のドアを開ける

春音「やっほ、アキ」

明久「ハルじゃん……なんでこんなところにいるんだよ!」

春音「タレコミがあって、来ちゃいました。ここにアキがいるって」

明久「タレコミって……ああ、なるほど」

春音「タバコの時間、少し長めだそうだよ」

明久「なんだよ、かっこつけやがって……」

春音「ふふふ、男の人って皆そうなのかな……アキも告白したっきり倒れちゃうし」

明久「うっ」

春音「言うだけ言って……会えなくなるってずるくない?」

明久「ううっ……しょうがなかったんだよ」

春音「そうだね、でもとっても哀しかったから……約束して」

明久「約束?」

春音「アキの最後まで、大好きでいるから……一緒にいよう」

明久「ハル……」

春音「ダメかな?」

明久「ダメじゃない……一緒だよ、最後までずっと……」

SE:抱きしめ合う音

明久「愛してる」

SE:時計の音

塩田「我ながら、バカだと思うよ……こんなことするなんて……あの青い恋が無残な最後になるって分かってるのに……いや、そうじゃないかもとか言うんだろうな君は……はは、心底優しい……そう言うヤツだったな」

塩田「(軽くため息)どうか、二人に祝福を……せめて、長くお幸せに……なんてな」

 

上演してもらいました


【声劇】病弱男子と元気女子の恋話【新作台本お披露目会】

 

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