蒼のウィステリア

藤色雨とリシテアの台本や情報をまとめています。

【朗読台本】神様と七色の魂と1000年

 元々、私は風の精霊だった。私の身はとても軽く、どんなモノも私の障害にはならなかった。
私はただ駆け行く風にすぎなかった。しかし、そんな風に翻弄されていた、人というものは……やがて私を祀るという行為で私の走りを止めようとした。
風が強すぎて、作物はなぎ倒される……その被害を食い止めるためだったらしい。
 自由を奪われ、神としてあがめ祀られる、その日々が苦しくなかったといったら、ウソになるだろう。
私は外に出ることが好きだった……好きだったのだけれど。

 やがてどうにもならないと悟った時、私は……私に供え物をする人間達を初めてまともに見た気がする。

 神となって随分経った時だろうか、ある日私に供物を捧げにきた女性がいた。
 それはけして珍しくない光景だったが、私は女性の魂を見たとき、驚いた。

 彼女は七色の魂を持っていたのだ。その淡々と柔らかく変化する色合いに……一目で心を奪われた。
恋という言葉で片付けていいものか……未だに私は迷う。彼女の魂の美しさ、そして……彼女の瞳の寂しさ……それがあまりに切なかった。

 彼女は……不幸な生まれを背負っていた。彼女は、いずれ水の蛇神に捧げられる存在だった。彼女の瞳にはいつも諦めがあった。私はそんな彼女に何かしてやれないかと、考えに考えあぐねたが、死ぬその瞬間まで何も出来なかった。私を祀る社から、じっと村を見つめる彼女の姿が印象的だった。
 声をかけることが出来れば、少しでも彼女の心を癒やし、軽くすることが出来ただろうか。
だが彼女に私の言葉は届くことはなく……私はそっと彼女の隣にいた。

 彼女の頭に飾られた、白い花の香りが、今も記憶から消え去ることはない。

 七色の魂は、その後何度も何度も私の前に現われた。
 彼女が生まれかわったのかもしれないし、七色の魂が複数あったとしてもおかしくもなかった。
 真相は未だに謎だが、その魂を持つモノは、魂の美しさと引き換えといわんばかりに、恵まれない境遇だった……
 あるものは、親に捨てられ、あるものは幼い年で亡くなった、命を全うしても何かに悩まされて苦しんだりもした。
 私は何度も、七色の魂を持つものに話しかけた。

 しかしついぞ、私の言葉をかえすものはなかった。

 私はかつて風の精霊だった。神になった後は、人に祀られ囚われ、廃棄されかけようともまだ神という立場に、縛られている。だが私は……それでもすがるように、七色の魂の存在に、心を動かされている。

 ……雨が降る晩だった。ふらふらと彷徨うように、傘を手にした子供がきた。雨から逃げているようだった。その少女は七色の魂を持っていた……そして哀しげな顔もしていた。

 ああ、なんということだ……今度こそ私は……

 堪えきれない思いを腹の底におさえて、私は少女に声をかける。聞こえなかったとしても、私はそなたに想いを傾けている。

 きょろきょろと辺りを少女は見渡す。そして私の方見た。

「声をかけてくれたの? お兄ちゃん」

 ……その瞬間、息が詰まった。
 永劫叶わぬとおもった奇跡が……今、叶ったのだ。

 

 

関連動画というかむしろ本編です


【女性向け】神様に優しくしてもらう11分【シチュエーションボイス】