【一人語り台本】その手のひらを濡らしたものは(女性用)
女性……姉が結婚詐欺にあい人生も精神的にこわれてしまった。
その復讐のために、犯人を見つけ出し、水が流れ込む部屋に閉じ込めた。精神構造は別に特殊なわけではなく、自分の行動に迷ったりしてる。
SE:コンコン
ねえさん、ごめんね……いきなり入っちゃって
今日の気分はどうかな、外は良い天気よ
……どうしたの? 何を言ってるの?
ごめんね……私、ねえさんが見えてるもの、分からないの
何が見えて聞こえているのか……誰も分からない……
あいつが、ねえさんを壊したから……
あんなに優しかったねえさんに、どうしてこんなひどいことが出来るんだろうね
……ねえさん、そこに何もいないよ……いないんだよ
どうして、そんなに幸せそうなの……
もうソッチじゃないと幸せじゃないの……
M:今から三年前、私の姉は結婚詐欺にあった。結婚詐欺はだまされたほうも……といわれがちだけど、本人からすればとても必死で、一生懸命に愛していたのだ。
そうでなければ……姉はこんなにも壊れなかっただろう。犯人は捕まっていない、隠れるのが随分上手だった。探すのに苦労した、見つけるのも大変で……でも、ようやく……私はアイツを捕らえた。
起きられましたか?
ずいぶんとよく寝てましたね。薬がずいぶん効いたんでしょう。
ふっ、どうしたんです……そんなに慌てて?
水、ああ……流し込んでますよ。あなたのいる、その部屋に。
少しずつですけど……もう足首までたまってますね
ここ、もともと水路の一部を部屋にしたものなんです。石を積んでね。でも古いからちょっと石をうごかせば……
ね、水がさらにはいる
そんなにキレないでくださいよ……これくらいたいしたことじゃないはず……あなたの罪に比べれば
ここは私の庭、私の法廷……あなたは裁かれるべきなんですよ
大人しく、何が罪か認識して、懺悔しなさい
M:一つ一つ強い言葉を吐く度に、心臓がおかしいくらいに飛び跳ねる。こんなことを言ったことがないとおもうばかりの言葉だ。私は怖かった。だって、私が人を裁くだなんて……けれど警察や法の裁きをうけたとしても、私が納得するとは思えなかった。ぐらぐらな私が裁定する、こんな笑えることはない。けれど……。
お姉ちゃん……私、ガンバルからっ
(ため息)なんで押し黙っているんですか?
あなたの罪を思い出せ……そう言っているだけですよ
は? 何を……?
どの女の話……?
あなたはもう何人も、いえ何十人も……
っつ、なんでそんな困ってるんですか?!
本当に思い出せないって……
あの人はお前の飯の種一人で片付けられる存在じゃ無い!!!!
くそ……笑うな!
お前……自分の命が誰の手に委ねられてるか分かって言ってるのか
今すぐだって私は……! ああっ……
M:立っていられなかった。今私は何を言ったんだ。私はそんな人間じゃなかった。
怒りにまかせて行動しなかったし、人をあんなに殺したいと思ったのは……初めてだった。まるで私が私じゃないみたい……
あ……ねえさん、どうしてそこにいるの……
屋敷にいるはずじゃ……私の、頭を撫でてくれるの……?
ねえさん……ああ、ねえさん……私は正しいのよね
正しいって言って……微笑んでるだけじゃ、何も分からないよ
ねえさん……!
M:ねえさんは本当にアイツを愛していたのだ
最近、ねえさん……外にでかけてばかりでいやだわ
そんなにあの人が好きなの?
別に、寂しいわけじゃ無いわよ、別に
ただ以前のように……いっしょにいるのが減ったなって……
だから寂しいわけじゃないの!
これでもねえさんの幸せを祈ってるんだから
ねえさんは……あの人のドコがすきなの?
いや、あるでしょ、好きなとこ
なんで顔真っ赤にして……え、もしかして
もしかして、全部好きってヤツ?
やだ……かわいい……
ちょっと急に、早足にならないでよ!
まってよー、ねえさん!
M:ねえさんは本当にアイツを助けたかったのだ
ねえさん、帰りおそかったわね、今日も仕事?
最近働き過ぎよ……ろくに休んでないじゃない
私だけじゃ無い、家族みんな心配してるのよ
おばあちゃんなんて、寂しがってる……
まって、そのまま自分の部屋にいかないで!
ねえさん、どうしてそんなにお金が必要なの
生活する分には困ってないわよね!
……だまってしまうのね……正直、言いたくないんだけど……
あの人のためなんでしょ
あの人のために働いてるんでしょ
恋人を支えたい気持ちは分かるけど……私は、ねえさんがどうかしてしまいそうで……こわい……
そんな優しくしないで、それでごまかさないでよ
ねえさん……ちゃんと話をしましょ
それはだめってどういうこと……ねえ、行かないでよ
行かないでねえさん!
M:ねえさんがぼろぼろになったあとで、アイツは姿を消した。そしてアイツの何もかもがウソだと発覚し……ねえさんはおかしくなってしまった。
どうしました……そんなに震えた顔で見て……
ああ、もう、腰まできてますもんね水
このままだと死にますよね……死にたくないなら……思い出してください……
私が赦せなくなる前に……!
話がある? なんですか、この後に及んで話?
自分には女を騙さないといけない理由がある?
(間を置いて)
……うん……うん……なるほど……そう……
つまり、自分を虐待した母親への復讐心が、女を傷つける原因になったということですね。
お腹の上まで水がくるまで、話したかった話がソレですか
……くだらない
ねえさんは……こんなくだらない男に、人生を壊されたの?
何で怒るんですか? くだらないものはくだらない……それだけですよ
虐待されたら、ねえさんを傷つけていい道理になるわけがない
罪を起こす理由があったから、ねえさんがああなってもしょうがないなんて、ない!
そんな言葉で、私たちの怒りや涙が収まるとおもったの!!
ふざけないで!!!!
……え?
……なんていったの?
だまされるのが、わるい……?
お前、どうしてそんなひどいことが言える? 思えるの?
ねえさんがどれだけお前を愛していたか知っていたはずなのに
どの女ってなんで私に聞くのよ!
お前はどうして覚えてないの……!
ねえさんなんて……そんなどうでもいい……存在だったの……
こんなやつ……こんな、やつ……死刑になってしまえ……
死んでしまえぇえええ!
M:姉はよくこんなことを言っていた
もう大人だから、そう言われてもあんまりうれしくない
うれしくないからー
(照れたように)優しいイイ子って
(間を置いて)
ねえさん、ごめん……
私、もうねえさんのところにかえれない……
私の手はもうこんなにも汚い……もう、ねえさんがいってくれたような、イイ子じゃない……
M:私は死体となって水の中をたゆたう、アイツを見た。コワイくらい白い顔だった。
そして……私はそっと床に置いていたナイフをとる。するどい刃を首にあてがう。
ごめんね……