蒼のウィステリア

藤色雨とリシテアの台本や情報をまとめています。

【声劇】とある祝福(♂×2)

ツリー……村の郵便やさん、村の情報通でもある。村の人気者のリリアンから色々と依頼されていた。

コース……リリアンの隣に家に住む青年、体が弱くリリアンに色々と世話されていた。


ツリー「おお、コースか。どうしたんだこんなところで」

コース「それはこっちのセリフだよ、ツリー。村はずれのこんなところまで、よく来たな」

ツリー「いやー、村が騒々しくて、逃げてきた。分かるんだけどね……この状況は」

コース「そうだな、家にいると村の人がやってきそうで、俺も逃げてきたんだ」

ツリー「なんだ似たもの同士か」

コース「そうだなお仲間だ……ああ、こんなお仲間いらないんだけどなぁ」

ツリー「失敬だな……! はは……まあ、そうなるよな。コースはリリアンと仲が良かったから」

コース「……リリアンはどこに行ってしまったんだろうか」

ツリー「わからない。でもまだ近くにいるんじゃないかな。昨日街に行く山道まで巡回してたそうだけど、全然見つからなかったそうだ」

コース「そうか……体がこんなものじゃなかったら、俺も探しに出てたのに」

ツリー「体が弱いことは誰も責めやしないよ……リリアンは君を献身的に看てたんだっけ……」

コース「そうだよ……彼女は癒やしの力を持っていたからね……」

ツリー「自室に花をまき散らして、いなくなったんだっけ」

コース「そう、それも不可解なんだ」

ツリー「うーん、花をまき散らす意味ってなんなんだろうなぁ……」

コース「それを俺に聞かれても……俺が聞きたいよ」

ツリー「……リリアンは良い女性だったねぇ。優しいし献身的だし、そのくせ面白い! こんな田舎で娯楽もなにもないようなとこにいるにしちゃ、良い人すぎたよ」

コース「全然浮いた話もなかったけど、村長の息子がだいぶ気にかけてたし、そのうち結婚すると思ってた」

ツリー「おや、君は彼女のことを狙わなかったのかい?」

コース「俺は無理だよ……彼女とそんな関係なんて……」

ツリー「なるほどなぁ、高嶺の花じゃないんだけど、なのに触れたらいけないっていうさ……謎のアレがあった気がする」

コース「リリアンは皆のものって感じだろ」

ツリー「そうそう、それ! 実際捜索でもたくさんの人が出てるし、心配している。本当に愛されてるな!」

コース「俺のリリアンなのに(ぼそっ)」

ツリー「ん? なんか言ったか?」

コース「なんでもない。あ、リリアンって両親はいないけど、愛情をいっぱい受けたらしいよ。だから、愛されたい願望はあるけど、それ以上に愛したいというのもあったようだね」

ツリー「へーそりゃ初めて聞いた。知らないことがあっても当然だと思うけど」

コース「俺だって外のリリアンをあまり知らないよ。そんなに愛されてるとは思わなかった」

ツリー「へんな意味じゃないけど、リリアンに迫ってる感じするな。もうちょっとしゃべろーぜ、チーズとハムはどうだ? さっきつまみに買ってきたんだよ」

コース「いいね、ちょうど、ぶどう酒を持っていたんだ。一人で酔うつもりだったけど」

ツリー「いいねぇ……リリアンがいたらきっと、昼間から元気ね!って笑うんだろうけど」

コース「リリアンって、全然怒らないんだよな、なんか冗談みたいに優しい」

ツリー「あのさ……唐突なんだけど、リリアンって大食いなの?」

コース「は? 大食い? なんでそんなことを聞くんだよ」

ツリー「いやー、肉屋のガウルが、最近肉をよく買ってるんだよとか言うし、他の人も色々とよく買ってるんだとか。後……酒もちょっと買ってるみたいで、酒屋が酒好きになったのかねって言ってたな」

コース「そんな大食いだなんて思ったことはないぞ。一人暮らしの女性だし、食べる量にも限度はあるだろ」

ツリー「だよなぁ、俺の仕事って郵便やだからさ、情報が手に入るんだけど……不思議だなぁと思ったよ。それと新聞も買ってた、うちから」

コース「しんぶーん??? 街のニュースでも読もうってのか? この村へんぴだし、皆外に行きたがらないじゃん。いるのか? そんなもん」

ツリー「俺も思ったわー。街のニュースは郵便を扱う関係で聞くけど、なんか別世界だなって思うしなぁ。外に対して無関心って言えばいいのか……」

コース「……その話ってさ、アレと関係あるのかな」

ツリー「あれ?」

コース「いや、なんか直感で話してるんだけど……前、リリアンはよく俺を家に招いてくれたんだ。飯が出来たとか、お茶の誘いとかで。でもここ二ヶ月、俺すらもあげてくれないんだ」

ツリー「なんでまた……コースまで入れなかったら、他の人なんてことさら入ってないんじゃないか」

コース「だと思う、それ以上に気になってたのは、疲れてるんだすごく」

ツリー「疲れてる? 彼女、相当元気な方じゃないか」

コース「そう、そうなんだよ。でも疲れないわけじゃ無くて、例えば俺がすごい熱をだすとするじゃん。それを癒やしの力で治すと、本人がすごく疲れるんだ」

ツリー「それってなんだ。癒やしの力をすごい使うほどのことでもあったのか」

コース「俺にはそうとしか思えなかった。でも俺の知ってるかぎりで、そんなことがあったなんて聞いてない」

ツリー「俺もだ。二ヶ月前に落石が山であったけど、人に被害が出たとは聞いてない」

コース「そんなこともあったんだ……ああ、きっと病でろくに外のことがわからなかった時期だ」

ツリー「そうだったなぁ、うん、コースは知らなかったんじゃないかな」

コース「……リリアンが家に人をいれなくなったのもその時期だな」

ツリー「え?」

コース「リリアンは、もしかして本当に悩んでいたのか?」

ツリー「なんだよ、その意味深な……リリアンの何を知ってるんだ」

コース「いや、なんていうか、言ってたんだよ。オトナになると、好きなものを好きというのはむずかしいって」

ツリー「彼女は皆のこと好きだと思ってたよ」

コース「そう。俺もそう思うんだ。皆が黄色い花が好きだといってるのに、赤い花が好きというのは言いづらいとも言ってた。ああ、そういうことってあるよな……なんせ村が一つの家族みたいなもんだから、そういうこと、あるとおもう」

ツリー「彼女は何か言えない好きなものがあったのかな……そういえば、新聞とってることを珍しがってたら、彼女言ってたんだよ。すげー、一人言みたいに。井戸の外の世界ってどんなものかなって。ちょっと意味が分からなくて、うまく応えられなかったけど」

コース「それ、彼女が以前言っていたやつかもな。井戸の世界に自分達はいる……そんなことを」

ツリー「どうして彼女はいなくなったんだ」

コース「それは分からないけど、部屋中にまいていた、この花に何かヒントはないかな。意外とこういうのに、ヒントや答えがあるもんだろ」

ツリー「押し花にしてたのか、うーん、なんだろ……ちょっと調べるか……えっと、辞典辞典」

コース「綺麗な花だよな。ほんと彼女に似合いそうな花だよ」

ツリー「ああ、これ……イキシアの花だな。花言葉は……え」

コース「どうした? そんなびっくりして」

ツリー「いや、うん……えーと……花言葉はな……秘めた恋」

コース「そうか……」

ツリー「意外と驚かないんだな」

コース「驚いてるよ、驚いている以上に、彼女は誰かと外へと行ったんだと思うとさ……ああ、彼女は鳥だったんだなって、泣けるんだ」

ツリー「コース……そうか、リリアンは……井戸の外、鳥かごから飛び立った鳥なのか」

コース「こんなドデカいことして、それが間違いの恋だったらと思うと心配だけどね」

ツリー「そりゃそうさ、僕らのリリアンだ! 絶対幸せになってもらわなくちゃ!」

コース「ああ、リリアン。君はいまどこにいるんだろうね……せめて門出を祝いたかったよ」

ツリー「まだ山は越えてないとはおもうんだけど……そうだ! 今日の夜ちょっと話をつけて、山の方へ人を行かせない。そうしたらリリアン達は、山を越えて外に行ける」

コース「おお、それは……リリアンはきっと喜ぶよ」

ツリー「コース、二人で山に向かおう。今から準備すればなんとかなるよ」

コース「え、でも」

ツリー「ちがうよ、彼女の旅を止めるわけじゃ無い。祝福するんだ」

コース「ツリー! 君はうまいことを考えるな!」

ツリー「へへ、名案だろ。さっそく準備しようぜ」

コース「ああ……まったく、ぶどう酒を飲んでる場合じゃ無い!」