【声劇台本】ビルの幽霊と終末世界(男性:1 女性:1)
幽霊……通称ゆう君、廃ビルから飛び降りて死んだ以外の記憶は無い
(実は生前妹のために叔父さんを殺したが、犯人だとバレる前に自殺した)
アリスM「明日、世界が終わってしまうらしい。唐突に皆の頭にそんな情報がはいってきたのは三日前。そんな世界は狂っていきながらも進んでいく」
アリス「夜になると、騒がしくなると思ったけど、意外と静かだね。明日、世界の終わりなのに」
幽霊「君こそ、家を抜け出して、不良じゃん……世界の終わりの日まで、不良なの?」
アリス「うーるーさーいー。幽霊に私のことをとやかく言われたくありません」
幽霊「はは、相変わらずだー。君ってヤツは……」
アリス「なによ」
幽霊「いや、なんでもない」
アリス「何ソレ、むかつくー。ゆう君のくせに」
幽霊「なんだい、くせにって。ボクほど、優しい存在はないとおもうよ。これでも」
アリス「はいはい……あーあ、世界の終わりまで、生きちゃったなぁ……」
幽霊「こんなに長く生きるつもりはなかった?」
アリス「バーカ、そんなこと、とっくに知ってるでしょ」
幽霊「ソウダネ、君はここに死にに来たんだっけ」
アリス「まだ死ねてないけどね」
幽霊「確かに」
アリス「私は不登校だった……クラス中に無視されてた、なんでそうなったのか、もはや思い出せない。お決まりのコースのように不登校になって、私は生きる意味が分からなくなり、不眠にもなり、夜の街をふらふらと歩いていたら、この廃ビルがあった」
幽霊「そこでボクは彼女と出会った。濃密な死の匂いを感じた。彼女はそのうち死ぬんだろうなと思った。ボクのお仲間か、嗤って声をかけた。すると、彼女は反応したのだ」
アリス「幽霊はさーなんで死んだか思い出せたの?」
幽霊「どうだかね」
アリス「なに、その曖昧、ムカつく」
幽霊「それでムカつかれても困っちゃうんだけど」
アリス「ふん……あー、飴がおいしいなぁ……おいしいなああああ」
幽霊「そんなキレ気味でいわれても……」
アリス「いや、星が綺麗すぎてむかついたから」
幽霊「(ため息)君がこう、素直になれることはないんだろうか」
アリス「わかんない! ああ、プリンなら素直になれるかも」
幽霊「プリンなら……? ほんとなの」
アリス「何よ、その言い方。ほんとにほんとに素直だよ」
幽霊「ほう……じゃあ、なんのプリンが好きなの?」
アリス「あー、そうだなぁ、超悩むなぁ……スタンダードも焼きプリンも、生クリーム付きもいいけど……うーん、かぼちゃかな」
幽霊「かぼちゃおいしいよね」
アリス「おいしい、めっちゃおいしい」
幽霊「でも食べ過ぎると体に良くなさそう」
アリス「ふふん、今日三つ食べちゃった」
幽霊「結構いったね」
アリス「だって、しょうがないじゃん、食べずに残ってるんだもん」
幽霊「そうか」
アリス「お父さんとお母さん、食べずに殺されちゃった」
幽霊「そうか……」
アリス「死体って白いんだね、重いんだね、腕一つも動かせなかった」
幽霊「死体だからね」
アリス「私のこと守らず、逃げればよかったのに。こんな、どうしようもないこと考えてた娘なんて」
幽霊「それが君の親だったんだよ」
アリス「ばっかやろぉ! なんでゆう君平然としてるの! もし命を天秤にかけるならお父さんとお母さんの方が命は重かったっ。私のこと強盗から守ろうとする必要は無かった」
幽霊「アリス……」
アリス「私が死ぬべきだったんだ」
幽霊「守りたいものからすれば、それが最適解だったんだよ」
アリス「最適解なんて聞きたくない……私には……!」
幽霊「ボクもそんな思いをさせたんだろうか」
アリス「えっ……?」
幽霊「アリス、ボクもそんな思いを大事な人たちにさせたのだろうか」
アリス「どういうこと……何を……もしかして、ゆう君、記憶が」
幽霊「君から世界が滅亡すると聞いた晩かな、思い出したんだ」
アリス「あの時に?」
幽霊「ああ、思い出した……ボクはね、殺したんだ人を」
アリス「人を……?」
幽霊「妹に手を出そうとしてるヤツがいた。母さんの弟、叔父さんだ、家にはいりこんで、我がものの王様だった。母さんも叔父さんをとめきれなくて……この手にかけた」
アリス「ゆう君……」
幽霊「結構偽装工作とか頑張ったけど、なんかどうにもならなくて、この廃ビルで自殺したんだ。ボクが捕まることによる妹や母さん達の迷惑を阻止するために」
アリス「ひと、ごろし……」
幽霊「ボクの手は真っ赤だよ。愛おしい家族のために汚した手だ。悪のために殺したなんて正義なんてうそぶかないけど……妹たちは悲しんだろうね、何も知らないから」
アリス「その腐った叔父さんの命より、あなたの方が大事だったんじゃないの家族は」
幽霊「ボクは、家族が大事だったよ……ボクの命をかけられるくらいに」
アリス「なによ、アンタも、お父さんもお母さんも、理不尽、不合理、全然むちゃくちゃ」
幽霊「それが愛だったんだよ、アリス」
アリス「つっ……お父さん、お母さん……二人どこにいるんだろう。もう少しで世界が終わるから、会えるかもなんだろうけど」
幽霊「どこなんだろうね、ボクの家族も世界の終わりを迎えているのだろうか」
アリス「今度会ったら、言わなくちゃ」
幽霊「何を」
アリス「バカって、それからありがとうって」
幽霊「ボクももし会えたら、なんて顔をすればいいのか」
アリス「へらへら笑っときなさいよ」
幽霊「ええー、怒られそう」
アリス「怒られた方が良いよ、うん」
幽霊「そんなあ」
アリス「怒られるのも、愛じゃない」
幽霊「はあい」
アリス「ああ……星のまたたきが強くなっている気がする」
幽霊「いよいよ、終末のときかな。って、何を祈ってるの」
アリス「いや、たいしたことじゃないけど」
幽霊「うん」
アリス「皆、ちゃんと幸せに終われますように……ってね」
幽霊「ははっ、そうだったら、とてもいいね」
終わり
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